売買契約書は物の売買取引を行う時に作成し、契約書内に合意した内容を書面にまとめることでトラブル防止する役割を担います。この記事では 売買契約書ひな形 と各条文の解説をします。
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売買契約書ひな形
動産売買契約書
〇〇(以下「甲」という。)と〇〇(以下「乙」という。)は、第1条記載の売買対象物(以下「目的物」という。)につき、次のとおり動産売買契約(以下「本契約」という。)を締結する。
(目的)
第1条 甲は、乙に対して、以下の条件で目的物を売り渡すことを約し、乙はこれを買い受けた。
① 品 名 〇〇
② 数 量 〇〇
③ 単 価 金〇〇円(消費税込)
④ 代金総額 金〇〇円(消費税込)
⑤ 引渡期日 令和〇年〇月〇日
⑥ 引渡場所 〇〇
⑦ 支払期限 本件物品の引渡完了後、〇日以内
⑧ 支払方法 以下の口座に銀行振込(振込手数料は乙負担)
〇銀行〇支店 普通預金
口座番号 〇〇
口座名義 〇〇
(引渡し)
第2条
甲は、引渡期日に、引渡場所に目的物を持参して引き渡す。なお、引渡しに要する費用は甲の負担とする。
(所有権)
第3条 目的物の所有権は、目的物の引渡し時に、甲から乙に移転する。
(目的物の不適合)
第4条 1 乙は、目的物に本契約に定める仕様に関する不適合が判明した場合、判明した時から1年以内に、甲に対し、その旨の通知をしなければ、修補、代金減額、損害賠償の請求をすることができず、また、これを理由に本契約を解除することはできないものとする。
2 前項の規定は、甲が当該不適合の存在を知り、又は重大な過失により知らなかった場合は適用しない。
(危険負担)
第5条 引渡前に生じた目的物の滅失、毀損、減量、変質、その他一切の損害は、乙の責に帰すべきものを除き甲が負担し、目的物の引渡後に生じたこれらの損害は、甲の責に帰すべきものを除き乙が負担する。
(解除)
第6条 甲又は乙が以下の各号のいずれかに該当したときは、相手方は催告及び自己の債務の履行の提供をしないで直ちに本契約の全部又は一部を解除することができる。なお、この場合でも損害賠償の請求を妨げない。
① 本契約の一つにでも違反したとき
② 監督官庁から営業停止又は営業免許もしくは営業登録の取消等の処分を受けたとき
③ 差押、仮差押、仮処分、強制執行、担保権の実行としての競売、租税滞納処分その他これらに準じる手続きが開始されたとき
④ 破産、民事再生、会社更生又は特別清算の手続開始等の申立てがなされたとき
⑤ 自ら振り出し又は引き受けた手形もしくは小切手が1回でも不渡りとなったとき、又は支払停止状態に至ったとき
⑥ 合併による消滅、資本の減少、営業の廃止・変更又は解散決議がなされたとき
⑦ その他、支払能力の不安又は背信的行為の存在等、本契約を継続することが著しく困難な事情が生じたとき
(損害賠償責任)
第7条 甲又は乙は、解除、解約又は本契約に違反することにより、相手方に損害を与えたときは、その損害の全て(弁護士費用及びその他の実費を含むが、これに限られない。)を賠償しなければならない。
(遅延損害金)
第8条 乙が本契約に基づく金銭債務の支払いを遅延したときは、甲に対し、支払期日の翌日から支払済みに至るまで、年14.6%(年365日日割計算)の割合による遅延損害金を支払うものとする。
(合意管轄)
第9条 甲及び乙は、本契約に関し裁判上の紛争が生じたときは、訴額等に応じ、東京簡易裁判所又は東京地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。
本契約締結の証として、本契約書2通を作成し、甲乙相互に署名又は記名・捺印のうえ、各1通を保有することとする。
令和 年 月 日
甲
㊞
乙
㊞
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売買契約書 条文の解説
第1条 目的
2020年4月の民法改正により瑕疵担保責任が契約不適合責任に変更されました。詳しくは後述の契約不適合責任の条項で解説しますが、第1条の目的条項では契約の対象物(売買する物)をなるべく具体的に記載することで契約不適合※があった際に保護を受けやすくなります。目的物の記載については物品名だけではなく数量も記載しましょう。
※契約不適合については後述します
また、売買する目的も記載すると、なおさら売主に契約不適合責任を問いやすくなります。下記で目的を記載した条文例を掲載します。
⚪︎契約目的を記載した条文例
乙は〇〇に使用する目的で目的物の購入を希望するため、甲は、乙に対して、以下の条件で目的物を売り渡すことを約し、乙はこれを買い受けた。
代金の支払い方法については手付金を支払うケースが考えられます。その場合の条項は以下となります。解除についての記載は民法557条に則っています。
⚪︎手付金を記載する場合
⑤手付金 金〇〇円(残代金を支払時に内金として充当)
甲又は乙が本契約の履行に着手するまでは、甲は手付金の倍額を償還して、乙は手付を放棄して、本契約を解除できる。
⑧支払期日 手付金は令和〇年〇月〇日限り
残金は、本目的物の引き渡し完了後〇日以内
引渡場所についてはしっかり記載するようにしましょう。記載がなかった場合の引渡場所は民法484条に則り債権が発生した時に目的物が存在した場所になります。
支払期限についても記載がない場合は民法573条により、目的物の引き渡し期限が支払期限となります。商取引では引渡日と支払日がずれるケースが多いと思いますので、支払期日についてもしっかり記載しましょう。
第2条 引渡し
第2条は第1条の確認となりますが、取引の根幹に関わる内容ですので記載した方が良いでしょう。
テンプレートでは引渡場所に売主が持参するケースを記載していますが、その他にも買主が取りに行くケースと郵送で送るケースが考えられます。それぞれのパターンも下記記載しますので必要に応じて使い分けてください。
⚪︎買主が取りに行く場合
乙は、引渡し期限に、引渡場所に目的物を引取りに赴くものとする。
⚪︎郵送で送る場合
甲は、目的物を、引渡期日に引渡場所に到着するよう郵送する方法で引き渡す。なお、引渡しに要する費用は甲の負担とする。
第3条 所有権移転
所有権は契約書に記載がない場合、民法176条、555条により売買契約締結時に移転します。ただし、民法通りの時期で所有権移転が起きると、引渡しが済んでいないのに所有権が移るという実態にそぐわない事態が発生します。そのため、契約書では所有権移転時期を明確に記載しましょう。
第4条 契約不適合責任
2020年施行の民法改正により、瑕疵担保責任が契約不適合責任に変更となりました。(民法562条第1項、民法563条第1項)
契約不適合責任とは、売買の目的物に種類、数量、品質のいずれかに関して契約内容と相違した場合に債務不履行責任として売主が買主に負担する責任です。
第1条で種類、数量、品質を具体的に定めたのは、この契約不適合責任で買主が保護されるために必要だったためです。
実際に、契約不適合が発生した場合は履行の追完請求(民法562条)、代金減額請求(民法563条)、損害賠償請求(民法415条、564条)、契約解除(民法541条、542条、564条)が可能です。
契約書テンプレートでは民法566条の規定通り、契約不適合時の通知期限を定めています。
また、買主有利の契約書を作成する場合は、契約不適合責任を負わない規定を設けることができます。下記に条文例を記載しますので必要に応じてご利用ください。なお、買主が消費者、売主が事業者の場合は消費者契約法8条により下記の免責規定は無効となりますのでご注意ください。
⚪︎契約不適合責任を負わない条文例
甲は、目的物に本契約の内容に適合しない箇所があっても、乙に対して何らの責任を負わない
第5条 危険負担
民法536条により、当事者双方の責めによらない理由で債務を履行できなくなった場合は、債権者は反対給付を拒むことができます。
テンプレートでは危険の負担者を引き渡し時に変更することで、物の所有者が危険を負担するというより現実に即した条項にしています。
第6条 解除
契約解除については催告により解除できる場合と、催告が不要な場合が民法541条、542条で明確に記載されています。
契約書でも不測の事態になった際のトラブル予防のため記載しましょう。
第7条 損害賠償請求
損害賠償の条項はなくても民法上で相手方に請求できますが、弁護士費用や実費などを請求できることを明らかにするために記載するのも有用です。
相手方との信頼関係を踏まえて記載するかどうか決めるべきですが、判断に困ったときには記載するのが無難でしょう。
第8条 遅延損害金
万が一、相手方の支払が遅れた場合、民法409条により遅延損害金を請求できます。
遅延損害金の利率は契約で定められていない場合法定利率3%(民法404条2項)となりますが、契約で変更することができます。
作成者が報酬を支払う側でしたら利率を低く、逆に報酬を受け取る側でしたら利率を高く設定することで未払い時に有利に進められます。
第9条 裁判所管轄
第一審のみは契約によって管轄裁判所を定めておくことができます(民事訴訟法11条)。万が一、紛争が生じた際に自分の有利な管轄裁判所で裁判ができるよう、ご自身の所在地に近い裁判所を指定しましょう。管轄裁判所は訴額が140万以下の場合、簡易裁判所が、140万を超える場合は地方裁判所が管轄裁判所になります。
基本的に簡易裁判所の方が手続きが楽に終わるので簡易裁判所を管轄で良いですが、訴額が140万円を超える場合は地方裁判所の管轄となりますので、いずれの場合でも対応できるよう、地方裁判所、簡易裁判所ともに条項内に記載しましょう。
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おまけ 記事内で取り上げた民法の条文
(物権の設定及び移転)
第176条 物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。
(弁済の場所及び時間)
第484条 弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。
2 法令又は慣習により取引時間の定めがあるときは、その取引時間内に限り、弁済をし、又は弁済の請求をすることができる。
(売買)
第555条 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
(買主の追完請求権)
第562条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
(買主の代金減額請求権)
第563条 前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
一 履行の追完が不能であるとき。
二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
3 第一項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。
(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)
第564条 前二条の規定は、第四百十五条の規定による損害賠償の請求並びに第五百四十一条及び第五百四十二条の規定による解除権の行使を妨げない。
(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
第566条 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。
(代金の支払期限)
第573条 売買の目的物の引渡しについて期限があるときは、代金の支払についても同一の期限を付したものと推定する。
(手付)
第577条 買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
2 第五百四十五条第四項の規定は、前項の場合には、適用しない。
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