ヨーロッパで最も住みやすい都市 ナントを訪ねて

2004年にタイム紙で『ヨーロッパで最も住みやすい都市』として取り上げられたことで知られる。
フランスのナントはロワール川の下流の街。
古くは、奴隷貿易で栄え、造船業が盛んだった工業都市。
船が大型化するにつれ、造船拠点はさらに下流域に移動していき、工業都市ナントは衰退していた。(1987年に造船所は閉鎖。)
1989年に39歳で市長に就任した Jean-Marc Ayrault ジャン=マルク・エローが、芸術・文化を中心とした都市再生を実行したのである。

芸術・文化を中心とした都市再生

その象徴が、
  象
☆ La Grand Elephant
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一見他愛もない乗り物だが、油圧で動くこの大がかりな機械はきっと人々にものづくりへの郷愁を感じさせてくれるもの。大田区の下町ボブスレーが大田区の製造業の象徴とすれば、この象もフランスの下町ナントの製造業の象徴といえる、まちへの興味をかきたててくれるものでしょう。
Les Machines de L’ile
機械の島。造船所撤退後のロワール川の中州のナント島に開発されたテーマパークである。
他にも、独特なアトラクションがあり、非常に新鮮な驚きが得られる。
☆ Le Carrousel des Mondes Marins
海中世界のメリーゴーラウンド
ナント生まれの作家。Jules Gabriel Verne ジュール・ガブリエル・ヴェルヌ(1828年 – 1905年)の「海底二万里」をモチーフにしたメリーゴーラウンドで、乗客は様々な彫刻をみることができる本格的な劇場です。
☆ La Galerie des Machines
他にもギャラリーで様々な芸術作品が創作されており、見ることができる。
製造業の拠点だったこと、ジュール・ヴェルヌというご当地作家という地域資源をうまく活用した施設だといえます。
他にも、ナント島には、
光の輪がロワール川沿いに並び(昼の写真でごめんなさい)、
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バナナ倉庫跡(上の写真右側)が、おしゃれな飲食店やナイトクラブに改装されていて、魅力的な商業ゾーンを形成している。
また、10haの用地を確保して、クリエーション産業を集約している。
さらには、マンションを建設して、ナント島に35,000人住まわせる計画である。
廃工場を商業施設として、まちの魅力を高めて、人口を増加させる戦略である。
ナント島以外にも、

La Folle Journée ラ・フォル・ジュルネ(熱狂の日)
1995年から毎年、ナントコングレスで開催されているクラッシック音楽祭。
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一流の演奏を低料金で提供することによって、明日のクラシック音楽を支える新しい聴衆を開拓しようとの思いがある。
ナントでの成功を受けて、日本でも東京(2005年~)、金沢(2008年~)、新潟(2010年~)、大津(2010年~)、鳥栖(2011年~)と世界各地で「ラ・フォル・ジュルネ」のイベントが開催されている。
Festival des 3 Continents ナント三大陸映画祭
1979年から毎年開催されている映画祭。アジア・アフリカ・ラテンアメリカの三大陸の映画作品の祭典。
日本の作品でも、是枝裕和監督の「ワンダフルライフ」がグランプリを獲得している。
Estuaire Biennale エステュエール・ビエンナル
2007年から隔年で開催されている現代アートの祭典。
ビスケット工場跡地
撤退したビスケット工場を市が買収して、現代アートの実験場に。ホールがあり、演劇、展示会などが行われる。アーティストインレジデンス機能もある。
若者が集まる飲食店もあり、飲食代金の設定は安く、若者が外で遊ぶより、建物の中で安全に遊ぶことが考えられている。
また、サウナも備えている。

以上の様に現代的な取組も魅力的であるが、
「ナントの勅令」という世界史用語が知られるように、中世から栄えていた都市であって、お城や大聖堂もまた市の中心部にあり、伝統的な商店街もにぎわっていました。
コンパクトでありながら、ヨーロッパの都市を満喫できて、芸術にもふれることができる、素敵な都市であることは間違いありません。
実質1日の滞在では十分にナントの魅力を満喫できなかったのが、今回残念なところです。
芸術のイベントが開かれる際には、1週間程度、充実した滞在ができそうです。

充実の都市交通

ナントは、1985年にフランスではじめて路面電車(トラム)を復活させました。
環境政策として、車の利用を抑制する政策です。

公共交通
路面電車を中心にした公共交通は都市圏広域でナントメトロポールという組合を組織している。
組合の代表は基本的に中心都市、つまりナント市長が担うということで、リーダーシップが明確である。
需要に応じて、トラムだけでなく、
専用レーンを走るバスウェイ、
信号が優先されるシステムのクロノバス、
(普通の)バス
と、様々に公共交通が走っています。
利用は、 1日乗り放題で 1人4.6ユーロ、4人グループだと 7.5ユーロと大変お得。
家族で出かけるのに便利だ、と現地の人が話していました。
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交通網は十分に張りめぐらされ、運行期間も5~10分間隔であり、乗り換えも安心できます。
また、深夜1時すぎまで運行しており、まさに市民の足となっています。
パークアンドライド
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パークアンドライドを推進しており、
郊外のトラム・バスの乗り場には駐車場が設置されており、トラムチケットがあれば無料で使用できる。6,000台分が確保されています。
自転車
レンタル自転車「bicloo」を採用。
市内に100か所以上のレンタサイクルステーション、850台以上の自転車が設置されています。
利用者は、標準的に年間29ユーロの登録料を払い、ICカードを手にいれます。
ICカードを専用の機械にタッチして、自転車を借ります。
1回ごとの利用料金は、30分以内ならかかりません。30分を過ぎると0.5ユーロ、60分を過ぎると1.5ユーロが延滞金として課金されます。
視察当日はあいにくの天気だったので、ほとんど走っている自転車を見ませんでしたが、レンタサイクルステーションはしばしば目にしたので、便利であろうと思います。
(パリでもレンタサイクルは導入されているのですが、中心部だったからなのか、ステーションも自転車もほとんど見ませんでした。)
自治体負担のない仕組みを広告代理店が構築しており、同じシステムが、
なんと! 
日本の富山にも輸出されています。
ちなみに、政策としては、自転車を移動手段とする割合を、現状の3%から、5%に引き上げたいとのこと。
水上バス navibus
ロワール川の対岸への渡し船。
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トラム・バスのチケットと共通で、自転車を乗せることもできるし、パークアンドライドの駐車場も設置されています。
運航間隔も、通常20分に1本、朝夕のラッシュ時は10分に1本と、市民の日常の足としての役割を担っています。
対岸にはおしゃれなお店もあって、ちょっとした非日常も味わえます。

従来は、片側4車線の大きな道路が走り、まちが分断されてしまっていました。
中央に、トラムやバスウェイを配置することで、人が道の真ん中も往来できる。道路によるまちの分断が解消されている。
そのように、地元の方が話していました。
エコだから、路面電車。だけではなくて、まちの活性化にもつながる。
新しい視点を気づかされました。
芸術・文化による都市の再活性化だけでなく、都市交通も充実しており、住民として住みよく、そして、誇りを持てるまちづくりが成功していると感じました。
ところで、Jean-Marc Ayrault ジャン=マルク・エローは、オランド大統領のもと首相に就任する2012年までナント市長を23年間務めました。ナント市再生の実績が評価されたのでしょう。
川が流れ、空港も近い、工場都市ナント市の再生は、わが大田区にとって参考になる事例ではないかと思いました。

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