長寿大国となっている日本では平均寿命が上がっていくのと並行して、要介護状態となってから亡くなるケースが増えています。施設へスムーズに入れれば良いのですが、近年では高齢化に伴い施設入居が困難なことも珍しくなく、子供のうちの1人が同居しながら介護を行う事が増えています。では兄妹のうちの一方が介護を行なっていた場合の相続において、介護への貢献度は遺産分割の割合などに反映されるのでしょうか。
1. 介護への貢献度は遺産分割割合に反映されない
例えば兄妹のうち、兄は実家を離れて遠方に暮らし、妹が母親と同居をしながら介護を行っていた場合、母親が亡くなってしまった時の遺産分割割合は妹が多く貰えるのでしょうか。
この答えは
「兄妹平等に分けられる」です。
日本の法律では同居や介護をしていた相続人に対する遺産分割の優遇制度は一切ありません。
妹が10年以上介護を続けたり、介護のために仕事を退職していたとしても、遺産分割協議を行って相続人全員が合意しない限りは妹が多くの遺産を手にすることはできません。
2. 介護は「寄与分」という考え方である
妹が遺産分割割合に納得しない場合は、家庭裁判所への申し立てを行い、調停による話し合いの場が設けられます。
そこでも納得のいく結果にまとまらない場合には、裁判にて争うこととなります。
これらの過程において介護は「寄与分」という考え方で扱われます。
寄与分とは要介護者の財産の保護に貢献した分を相続において上乗せするという考え方です。
この寄与分については法的なものさしがあるわけではなく、相続人が評価して認めることで上乗せが行われるものとなっています。
介護をしていない相続人にとって寄与分を認めることは、自身の遺産分割割合を減らすこととなってしまいます。そのため調停や裁判にまで争いが進めたところで、妹の寄与分を他の相続人に認めてもらい、多くの遺産を受け取ることは現実的には難しいでしょう。
3. 介護をする側が注意したいトラブル
介護をしていた妹が遺産分割協議で不利な疑いをかけられることもあります。
同居をしていると家賃は発生せず、生活費などを親と共同で管理することが多いでしょう。これらを相続人の中には同居を「衣食住の金銭的サポートにあたる」と主張される可能性があることに注意が必要です。
介護費用は決して安くありません。
そのため親が要介護状態になった場合に、娘にあたる妹が母名義の通帳を管理してお金の出し入れを行うこととなります。
介護をしていない他の相続人から見れば、決して安くはない金額を小まめに出金していることに「母の預金を介護のふりをして使い込んでいる」と疑う者が出てくるかもしれません。
介護費用についてはあらかじめ別の通帳で管理を行い、支払った費用などについては領収書などを保管しておくことがトラブルの防止策となるでしょう。
4. 介護をした分遺産を多く貰うには
介護を引き受けた妹が遺産を多く貰うにはどうすればよいのでしょうか?
確実に貰うためには生前に介護を引き受けるにあたり、母親に対して有効な遺言書を残してもらう事が大切です。
遺留分まで考慮された有効な遺言書があれば、他の相続人が遺産分割協議を希望したとしても全員の合意が得られなければ遺言書に従い相続が行われます。
将来の相続トラブルを防ぐためにも、介護を始めるにあたっては他の相続人に対して負担を考慮してもらえるようあらかじめ話しておくことをおすすめします。
要介護状態となった実親に将来の相続や遺言書の話をすることは気が引けるかもしれません。ですが相続をきっかけに親族の仲が険悪になり、結果的に疎遠となってしまうことが多いのも事実です。
友好的な親族関係を続けていくためにも、まずは判断能力のあるうちに有効な遺言書を残しておきましょう。